加工依頼品製作(学生フォーミュラ活動の支援)

category Case Studies
2020/09/11

学生フォーミュラで使用する車両は毎年作り直すため,ほとんどの部品が1年で不要になってしまいます.

速さを求めて年々少しずつ設計変更が行われるんですが,各部品が複雑に関係しているため一部分だけ変更というのは難しいんですね.

中には複数年使用する部品もありますが,それもあまり大きな負荷が掛からない部品に限られるのではないでしょうか.

レース車両ですから各所に大きな負荷が掛かるので,経年劣化を考慮すれば設計変更無くとも作り直すべきでしょう.

そういった訳で毎年不要部品がほぼ車両一台分出るわけですが,これが結構捨てられること無く部室のあちらこちらに転がってます.

なかなか捨て辛いんじゃないでしょうか.自分達で設計・製作して,共に戦ってきたわけですから.

気持ちは判ります.しかし使われることもなくただそこらに転がっているのを見るのも忍びない….

というわけで,有効活用計画発動.不要アップライトを使ってこんなものを作ってみました.

飾り台に銘板を付けることでトロフィーっぽいオブジェに仕立ててみました.中央に時計を置いてますので実用品としても役立ちます.

部品点数はそんなに多くは無いんですが,設計も加工もとにかく大変でした.いろいろなパターンを考えて試行錯誤の連続で,時計自体を作ることも考えたりしました.最終的にはちょうど収まる時計を見つけることが出来ましたので事なきを得ましたが.

加工も大変でした.少ない部品点数に関わらず,フライス盤,旋盤,マシニングセンタ,複合加工機,ワイヤ放電加工機,レーザー加工機と,ものづくりセンターの主要加工機械を全部使ってます.

塗装もやる羽目になりました.塗装は苦手なんでやりたくなかったんですが….

時計とアップライトの間は隙間が空いてます.おしゃれポイントです.

この隙間を如何に作るか,いろいろ悩みました.

ポリカーボネート等の透明な樹脂でスペーサーを作って宙に浮いているかのようにしようかとも考えたんですが,光の反射等で透明な板があるのがすぐ判っちゃいますし,やっぱり金属加工で行きたいなと思いこの形に.

3本の柱の部分は出来る限り光を通したかったので,隅Rがほぼ無いワイヤー放電で加工しました.柱の幅は2mmですが,触った感じもっと細く出来そうです.1mmでもぎりぎりいけそう.

外周部にはOリング溝があり,Oリングの抵抗でアップライトに固定されるようになってます.

中央のくぼみは鉄板が入る所です.時計は磁石で鉄板に張り付いてるだけなので簡単に取れるようになってます.

中央の板の形状は,温度・湿度測定用のスリットを避けた上,時計を取り外すときに指が入る隙間が必要だったためこんな形に.潰れた玉ねぎみたい.

時計の刻印の部分はマシニングセンタで溝を掘った後,塗料を流し込んでありますが,この溝を掘るのは本当に手間が掛かりました.

時計の面が平面で無く歪んでまして,内周部に向かって窪んでおり,しかも時計の個体毎に歪みの度合いが違うんです.ですからプログラムを走らせても削れる場所もあれば削れない場所もあったりする訳です.結局マシニングセンタに張り付いてちょっと削っては確認,ちょっと削っては確認.辛かった….

刻印のCADデータも元画像を参考に手作りしました.このCADデータだけでもとんでもない時間が掛かってます.

塗装も難儀しました.時計の表面の白い部分はザラザラした感じというか,極小の凹凸で艶消しを表現しています.このせいで塗料が表面に載ると完全に拭き取れない,溶剤で拭き取ろうとすると樹脂表面が溶けてそこだけ艶が出てしまいます.そこで溝周囲をちまちまとマスキングゾルでマスクしてから塗料を流し込む羽目になりました.

この写真はマスキング途中のもの.内側のマスキングが出来たところです.ここから更に溝の外側もマスキングしなければいけません.溝にマスキングゾルが入らぬよう塗らねばならないので神経使いますし,時間も掛かる….

銘板はステンレスの板に印字した透明のシールを貼ってます.本当はレーザー刻印にしたかったんですが,ものづくりセンターのレーザー加工機は刻印に向いてないんです….

銘板には車両名と参加した大会の日時,総合順位を記載してあります.

透明なシール貼るのって,本当に難しいです.空気が入ったら当然ダメ,ほこりが入っても透明だから見えてしまってこれもダメ.貼ってる最中にちょっと剥がすようなことをするとそこが白く濁ってやっぱりダメ.20回ぐらい試して成功したと言えるのは2回だけでした.これも時間掛かった….でも色々貼り方を変えての試行錯誤は勉強になりました.ここで学んだものを使う事は多分無いと思いますが.

飾り台はフライス盤で切削加工した後,クリアー塗装をしてあります.

クリアーを刷毛で塗って乾かした後にサンドペーパーで研磨.これを数回繰り返し,最後に艶消しクリアーをスプレーで塗って仕上げました.これも手間が掛かりましたが,未塗装に比べて落ち着きのある色合いになりました.

他にも本当に色々苦労しましたが,その甲斐あって良いものが出来たと思います.次はアップライト以外の部品で何か作ってみたいですね.